「私、無神経なことを言ってしまったかも」

 切羽詰まった表情で響さんを見上げたのに、当の響さんはミャオちゃんの背中を見つめながら優しく微笑んでいた。

「響さん?」
「ああ、ごめんねぼうっとしちゃって。違う違う、あれは照れてるのよ。そんなふうに言ってもらえたの、きっと初めてだもの。嬉しかったんじゃないかしら」

 響さんははっとした後、ぶんぶんと手を顔の前で振る。

「そうでしょうか……?」

 前を歩いているミャオちゃんがちらっと振り向く。目が合うとすぐに前を向いてしまったが、さっきより耳が赤くなっているような気がする。
 なんだかこの感じは、警戒心の高い野良猫みたい。わかりにくいようでわかりやすい不器用さが可愛くて、わしゃわしゃと頭を撫でたくなってしまう。しかし猫と同じで急に近付くと逃げられそうだから、想像で留めておくことにしよう。

「この裏通りはね、だいたい同じ地主の人が土地を持っているの。その人が訳アリの店主にばっかりテナントを貸すから、ここ一帯は個性豊かなお店ばかり集まっちゃって。だからあたしたちは、その人への感謝を込めてこの裏通りを『まごころ通り』って呼んでいるのよ。……着いたわよ」

 そんな話をしながらてくてく歩いていた響さんが立ち止まったのは、通りのちょうど突き当りにあるお店。のれんには『こころ食堂』と書いてある。
 田舎のおばあちゃんちを思わせる木造建築、すりガラスの引き戸。窓から漏れるオレンジ色の光が暗くなり始めた通りを照らしていて、優しく『おいでおいで』と手招きしているみたいだった。