「ミャオは人間とコミュニケーションを取るのは苦手だけど、猫とは意思疎通ができるのよ」
「猫と⁉」

 びっくりして、大きな声が出てしまった。「す、すみません」と言って両手で口を押さえる。気を悪くさせてしまっただろうか、とミャオちゃんを振り返ると、響さんが肩をぽんと叩いてくれる。

「驚くくらいじゃ、あたしもミャオも気を悪くしないから大丈夫よ。というか、驚かない人間のほうが気味が悪いでしょ」

 おちゃめな口調でフォローしてくれて、心がすうっと軽くなった。この人の、こちらの気持ちを軽くさせる雰囲気や気遣いは、オネエだとか性別だとかに関係なく、響さんの人間性そのものなんだなって思う。

「あなたが倒れるところに出くわしたのも、猫ネットワークのおかげなんですって。あなたの定期をくわえていった猫、豆大福って名前でね。脱走の名人でここ一帯のボス猫なのよ」

 豆大福が違うと言っている、とか、さっきふたりが不思議な会話をしていたのはそのせいだったのか。確かに、でっぷりした白黒の身体が豆大福に見えないこともない。

「すごいですね。私小さい頃から猫が好きで、一度お話してみたかったからうらやましいです」

 感心してほうっとため息をつくと、後ろを歩いていたはずのミャオちゃんが早歩きで私たちを追い越していった。
 私の横を通り過ぎるときにちらりと見えた表情は、心なしかさっきよりもむすっとしていた。うらやましい、なんて軽々しい言葉を言ってしまったから、怒らせてしまったのかもしれない。