「あの、本当にいろいろとありがとうございました。響さんは、お店のほうは大丈夫なんですか?」

 陽が落ち始めた通りを歩きながら、響さんに話しかける。

「あたしは、バーだから夜からなの。まだオープン時間には余裕があるのよ。ほら、ちょうどここよ」

 響さんが、細長くてきれいな指で、猫カフェから数軒隣の店舗を指し示す。こげ茶色のシックなお店の前には『Bar HIBIKI』と書かれた黒板が置かれ、下のほうに小さく十九時から、と表記があった。

「ミャオも、猫カフェのアルバイトというかお手伝いだから」
「中学生でもバイトってしていいんですか?」

 疑問に思って問いかけると、響さんはミャオちゃんを見下ろして苦笑した。

「ミャオは高校生よ。見えないだろうけど」
「そうなんですか。ごめんなさい、可愛らしいからてっきり」

 でも、高校生ってことは、平日のこの時間は学校に行っているはずじゃあ。腕時計を見ると、時計の針は十七時を指していた。私はまるまる一時間も眠っていたことになる。
 私の顔色を読み取ったのか、響さんが顔を寄せて耳打ちしてきた。

「ミャオは学校には行ってないのよ。しゃべらないのも訳アリだから、あんまり追及しないであげてね」

 そうなのか……。おとなしくついてくるミャオちゃんを振り返って、苦労してるのは自分だけじゃないんだ、と恥じ入るような気持ちだった。世界の終わりみたいな気持ちでいたけれど、同じような境遇でも一生懸命生きている人はたくさんいる。

「はい、わかりました」
「いい子ね。素直なのは美徳よ」

 響さんにウインクされて、目の前がチカチカしてしまった。