「違うって、豆大福が言ってるの? ……ふうん。何だか事情がありそうね」

 見透かすような目で見られて、とっさにうつむいてしまった。オネエさんは気にしたそぶりもなく、私に手を差し伸べてくれる。意外なほどしっかり支えてくれて、その力は確かに男の人だった。

「あなた、動ける?」
「はい、大丈夫そうです」

 手を借りて立ってみたけれど、めまいもしないし大丈夫みたい。ぐっすり眠ったのが良かったのだろうか。

「ちょっと連れて行きたいところがあるんだけど、いいかしら」
「連れて行きたいところ……?」

 いぶかしむ私にオネエさんは、「大丈夫、悪いようにはしないから」と微笑んだ。この人が悪い人には見えないし、助けてもらった恩もあるから断りづらい。
 それに何だか、このふたりの風変わりなコンビに、短時間で親近感を抱いてしまっていたのだ。

「わかりました」
「そうこなくっちゃ。ああ、自己紹介がまだだったわね。あたしは隣のバーのマスターで、酒井(さかい)響(ひびき)。響でいいわ。こっちは猫カフェのオーナーの姪っ子の宮尾(みやお)優。ミャオって呼ばれているの」

 胸を張る響さんの恰好は、確かにバーテンダーそのものだった。細身だからわからなかったけれど、立ち上がると思っていたより身長が高く、上から黒いトレンチコートを羽織るとモデルにしか見えなくなったけれど。

「響さん、ミャオちゃん……。私は持田(もちだ)結です」
「持田さんね。よろしくね」

 裏で仕事をしていたオーナーご夫妻にお礼を言って、猫カフェから三人揃って出る。外の看板には『保護猫カフェ にくきゅう』と書いてあった。ドアや出窓にも肉球の形のシールが貼ってあって、白木で統一された外観は可愛らしい。