海上に来たのも初めてなのに、陸にまで近付くなんて…本当に大丈夫なのかしら。

陸に向かってぐんぐん進んでいくララの背中を見つめながらも、戸惑うルリの心。


お母様にバレたら叱られるだろうな。
もしも王女様に知られたら、しばらくは泳ぐことさえ禁じられるかもしれない。

いくら十五歳になったとはいえ、海上まで上がってきたうえ陸にまで近付くなんて、やっぱり危険だ。


幼い頃から常に教えられてきた。
海上の世界には、手足の生えた人間という生き物がいて、その者たちがルリたち人魚が生きる海を汚し、仲間である魚たちを捕まえ、残酷に食い荒らしているのだと。

そして、そんな人間が人魚に対して行う残忍な行為は、想像しただけで身震いがするほど恐ろしいものだった。


人魚の身を食せば、不老不死になる。
海上の世界には昔からそんな伝えがあるといい、たくさんの人魚が犠牲になってきたという。

生きたまま切り刻まれ、火に炙られ。
ただ生き続けたいという欲望のためだけに、いくつもの人魚の命が奪われてきたのだ。


そんな人間がいる世界は、やっぱり…危ない。

そう思った途端、泳ぐスピードが一気に落ち、ルリの尾びれはゆっくりと止まった。