ルリたちの住む世界は、とても深い海底にある。

海は世界中に繋がっているけれど、人魚の国はその世界各地に点在していて、十五歳になるまでは自分が生まれた国以外の海域へは踏み込んではならない。

物心がついた頃からそう教えられ育ってきたルリは、今日という晴れやかな日を迎えるまでずっと、琉球国という名の決められた狭い海域の中で生きてきた。


「ルリ、海上には上がった?」
「いいえ、まだよ。みんなにペンダントを見せたくて泳ぎ回っていたから」
「そう。なら、今から少し行ってみる?」
「いいの?」
「少しだけよ?王女様に知られたら、大変だから」


ララはそう言うと、美しい鱗を光らせながら長い尾びれを緩やかに動かしていく。


「やっぱり、海上に出ると怒られるのかしら?」


隣を泳ぎながらルリがそう問うと、ララは何故か険しい表情でつぶやいた。


「もちろん怒られるわ。危険もたくさんあるし、万が一にでも人間に見つかったら、捕まえられて食べられてしまうのよ」
「その話は何度も聞かされてるから危険は承知の上だけど…どうしてララお姉様はそんな危険な海上へ私を連れていってくれるの?」


もし見つかれば、ララだって罰を受けるはずだ。
それなのに、一緒に来てくれるなんて何故?
首を傾げるルリを見つめ、優しく微笑んだララは言った。