「はあ⁉ バッカじゃないの⁉」
誰もいないはずの部屋にそんな声が響き渡った。背後から降りかったそれを知るため、私は勢いよく顔をそちらに向ける。
するとそこには、あの日の朝と何も変わらない優ちゃんが立っていた。
紺色の制服に、赤い紐状のリボン。丸襟に、耳の後ろで結ばれた二つの髪。
少し透けていて、角があること以外は、私が知っている優ちゃんそのものだった。
「ゆ、優ちゃん?」
「あんた、ほんとバカなの⁉ 何があたしの代わりよ。全然うれしくない!」
その言葉には、何か強い力がこもっているようで、強風に吹かれたように私は椅子から落ちてしまった。
優ちゃんは力強く拳を作り、言葉を続ける。
「むしろ悔しい。あたしが応募できなかったコンテストにたくさん応募して、賞を取って作家になるだなんて、悔しすぎて死ぬに死ねないわよ!」
キンと張った声が耳の奥で反響する。
ああ、私がしたことはやっぱり誰のためにもならない、ただの迷惑行為だったんだ。
今、目の前にいる優ちゃんに対し、私は何の疑問も持たなかった。
私がこんなのだから、優ちゃんは怒って出てきたのだろうと、自然と理解していた。
「ご、ごめ……」
「……じゃなくて! なんで?」
「え?」
優ちゃんは前髪を掻き上げ、「あー!」と声を漏らす。言いたい言葉がまとまらないのだろう。
「だから、なんで自分の叶えたい夢じゃないのに、何年も追いかけられるわけ⁉ いい加減、自分の気持ちに正直になりなよ! 嘘つかないでよ、言い訳しないでよ!」
優ちゃんの言いたいことがよくわからなかった。正直になれって? 私は今も昔も正直だよ。
「わ、私は何も嘘なんてついてない。優ちゃんの代わりに夢を叶えること、それが私の夢なの」
「ほら、嘘じゃん」
以前は、私よりも背の高かった優ちゃんが、私を少し見上げて指をさしてきた。
キリッと睨んでいるかのように思えるその表情は、いつも相手に真剣にぶつかるときの顔だ。