母は私が了承したと認識し、部屋から出て行った。
私は再び椅子に腰かけ、机の上にある暗くなった画面を見つめる。
そこに映るのは、十年前と何ら変わりない自分だった。
なにかに疲れてしまった。でも私は書かなければならないと。優ちゃんの夢を叶えることが私の務めだと。そう考えて努力してきた。
大学に進学することなく、バイトをして書いて応募して。
今まで優ちゃんの話をざっくり聞くことしかしてこなかった私が、自ら物語を考え、文章で表した。
思い描いたことを正確に伝えることがなかなか難しくて、上手く書けない自分が嫌になる時もあった。
ストーリーの原案から描写、構成、セリフも自分一人で考え、尚且つ読者に伝わるように書かなければならない。
文庫本一冊は約十万文字。
それを書いて書いて書いて、完結できることは並々の努力ではできないことなんだ、優ちゃんは本当にすごかったんだ、ということを改めて思い知らされた。
読書嫌いだった私が、大量に本を買ってきて、明け方まで読み漁った。
だんだん読書の魅力にも気づいてきて、ライトノベルからライト文芸、文学小説まで幅広い作品を読んだ。
読めない漢字や、わからない単語はノートに書き、意味を調べて覚えた。漢字検定の本を買って、自ら勉強した。
いつしか、好きな作家やレーベルも決まってきて、そのレーベルカラーはどんなものが多いのかを分析し始めた。分析結果をもとに小説を書いて、何十回と推敲して応募した。
どうして私は、優ちゃんのためだけにここまでやってくることができたのだろう。
どうして母の条件に、心から了承できなかったのだろう。
いや、そんなことを考えたことなどなかったんだ。ただ、夢を叶えられなかった優ちゃんの代わりにと。
そう、それだけが私の原動力だったんだ。
「優ちゃん……ごめんね。優ちゃんの夢、代わりに叶えるって決めたのに。私、もう、叶えられないかもしれない」
視界がぼやける。真っ黒な画面に映る私は消えてしまった。目頭が熱くなって、生温かい雫が頬を伝う。