一体この子は何歳になったのだろう。
相変わらず、見える背中は小さいのに、いつの間にか制服は着なくなって、髪も伸びて、聞こえてくるタイピングの速度は速くなっていた。
朝八時に起床して、九時にバイト先のコンビニへ向かう。
昼まで働いた後、持っていたおにぎりを口に運びながら別のバイト先である飲食店へ向かい、六時まで働いた。
それから家に帰り、ご飯を食べたあと、彼女は自室へこもり、カタカタとキーボードを叩く。
少し切りのいいところまでいくと、お風呂に入って、あがってきてまた執筆。
一時半ごろまで書いた後、立ち上がり、グンっと背伸びをしてベッドに倒れ込み眠る。
それを毎日繰り返す。何も変わらない習慣を、あたしがここに来て何年繰り返しただろう。
もう希衣は立派な大人だ。なのに彼女は自分の人生を犠牲にして、「優ちゃんの代わりに」と執筆活動を続けている。
もうあきらめてしまえばいい。あたしの代わりに夢を叶えようとしないでほしい。
そうやって作家になられても悔しいだけだし、なにより希衣には自分の夢を持って、それを叶えてほしい。
だからあたしは、希衣が応募したコンテストを、ことごとく落とした。
ある時からあたしは、悪魔の力が働くことに気が付いた。
希衣の応募したコンテストがどうなっているのか気になって、何度か出版社を覗きに行ったことがある。
そこで、希衣の作品が読まれているのを見た。
「この作品、まあまあいいかもな」
そんな言葉を聞いたとき、何かがあたしの中で沸(わ)き上がった。
胃から喉元に、黒いものがたくさん溜まって、目頭がじわりと熱くなる。
多分悔しかったんだ。あたしはそんなこと、言われたこともない。言われていたとしても、知らない。
かすりもしなかったあたしの夢と努力は、本当になりたいと思っているわけでもない人に負けてしまうなんて。そんなの許せなかった。
その時、また頭痛が襲った。あたしの汚い心が膿(うみ)となって出ていくように。
そして、先ほどまでこの作品は良いと言っていた編集者が、原稿を机にはらりと捨てた。
「でも、やっぱりだめだな」
他のコンテストでも同じことをして、これはあたしの悪魔の力なのかもしれないと思った。
希衣を落とすとき、あたしの頭の角は必ず伸びる。まるで、本物の悪魔に近づいてきていると言わんばかりに。
確かにあたしはひどいことをしている。あたしの代わりに、と必死に努力する優しい希衣を、あたしが落としているのだから。
でも、これって本当に悪いことなの?
だって、それは希衣の夢じゃない。希衣は希衣の夢を追いかけるべきなのに。
人生は短い。いつ死んでしまうかもわからない。だから希衣には自分の好きなことをしてほしい。なのに。
「どうして好きでもないことを、人生を犠牲にしてまで、何年も続けられるの?」
あたしの問いに、返事はない。ただ眠そうな目を擦って、パソコンと向き合う希衣に、またモヤモヤとした何かが溜まっていく気がした。
相変わらず、見える背中は小さいのに、いつの間にか制服は着なくなって、髪も伸びて、聞こえてくるタイピングの速度は速くなっていた。
朝八時に起床して、九時にバイト先のコンビニへ向かう。
昼まで働いた後、持っていたおにぎりを口に運びながら別のバイト先である飲食店へ向かい、六時まで働いた。
それから家に帰り、ご飯を食べたあと、彼女は自室へこもり、カタカタとキーボードを叩く。
少し切りのいいところまでいくと、お風呂に入って、あがってきてまた執筆。
一時半ごろまで書いた後、立ち上がり、グンっと背伸びをしてベッドに倒れ込み眠る。
それを毎日繰り返す。何も変わらない習慣を、あたしがここに来て何年繰り返しただろう。
もう希衣は立派な大人だ。なのに彼女は自分の人生を犠牲にして、「優ちゃんの代わりに」と執筆活動を続けている。
もうあきらめてしまえばいい。あたしの代わりに夢を叶えようとしないでほしい。
そうやって作家になられても悔しいだけだし、なにより希衣には自分の夢を持って、それを叶えてほしい。
だからあたしは、希衣が応募したコンテストを、ことごとく落とした。
ある時からあたしは、悪魔の力が働くことに気が付いた。
希衣の応募したコンテストがどうなっているのか気になって、何度か出版社を覗きに行ったことがある。
そこで、希衣の作品が読まれているのを見た。
「この作品、まあまあいいかもな」
そんな言葉を聞いたとき、何かがあたしの中で沸(わ)き上がった。
胃から喉元に、黒いものがたくさん溜まって、目頭がじわりと熱くなる。
多分悔しかったんだ。あたしはそんなこと、言われたこともない。言われていたとしても、知らない。
かすりもしなかったあたしの夢と努力は、本当になりたいと思っているわけでもない人に負けてしまうなんて。そんなの許せなかった。
その時、また頭痛が襲った。あたしの汚い心が膿(うみ)となって出ていくように。
そして、先ほどまでこの作品は良いと言っていた編集者が、原稿を机にはらりと捨てた。
「でも、やっぱりだめだな」
他のコンテストでも同じことをして、これはあたしの悪魔の力なのかもしれないと思った。
希衣を落とすとき、あたしの頭の角は必ず伸びる。まるで、本物の悪魔に近づいてきていると言わんばかりに。
確かにあたしはひどいことをしている。あたしの代わりに、と必死に努力する優しい希衣を、あたしが落としているのだから。
でも、これって本当に悪いことなの?
だって、それは希衣の夢じゃない。希衣は希衣の夢を追いかけるべきなのに。
人生は短い。いつ死んでしまうかもわからない。だから希衣には自分の好きなことをしてほしい。なのに。
「どうして好きでもないことを、人生を犠牲にしてまで、何年も続けられるの?」
あたしの問いに、返事はない。ただ眠そうな目を擦って、パソコンと向き合う希衣に、またモヤモヤとした何かが溜まっていく気がした。