ピンポンと軽快な電子音が響き、我に返る。
そういえば、そろそろ届くころだった。
一年ほど前に書きなぐった原案のファイルを優しく閉じて、玄関へと向かう。
扉を開けると、段ボールを持った配達員さんが、汗を流しながら立っていた。
印鑑を押して荷物を受け取る。ずしりとした重さに、思わず笑みがこぼれた。部屋に戻り、早速ガムテープをはがす。
そこに入っていたのは、何冊もの同じ表紙をした本。
表紙の中央に、ショートカットの女の子が微笑みながら涙を流していた。
その腕には、たくさんの原稿用紙が大切そうに抱かれている。
背景は、大きな本棚にびっしりと本が敷き詰められているものだった。
太いもの、細いもの、大きいもの、小さいものなど様々だ。
窓はないものの、ハイライトの具合や光の当たり方から夕日がさしているのがわかる。
女の子を避けるようにして左右に割られた『100年後も君の代わりになんてなれない』というタイトルのデザインは、何か深い意味があるのではと思わせるほど、しっかりと主張されていて綺麗だった。
そんな表紙の邪魔にならないよう下に巻き付くのは、思わず手に取ってしまいそうなキャッチコピーを書いた帯。
「すごいなあ。こんなに素敵に仕上げてくれるなんて」
SNSに載せようと、スマートフォンを取り出す。
どこかいい背景はないかと探し回った挙句、机に可愛らしい布を敷いて、その上に本を並べた。
一冊は表を向けて。もう一冊は裏表紙を、その他の本は背表紙を向けて撮影した。
けれど、意外にも暗くなってしまったので、フラッシュをたいてもう一度撮り直す。
今度は表紙が反射して、タイトルが見えなくなってしまった。
なんとか試行錯誤を繰り返し、結果的に一枚目の写真を加工して明るく見せるという方法にたどり着いた。
「デビュー作の見本誌、届きましたっと」
あまり自慢のようになってしまってはいけないかと気を遣いつつ、多少の宣伝を入れて世界に発信した。
画面を閉じて、目の前の本たちと向き合う。夢にまで見た自分の本。ドキドキして仕方がなかった。
「……行かなきゃ」
目の前の本の一冊を手に取り、丁寧に包んで家を出る。
誰よりも先に読んでもらいたい人がいるから。