初めて私の夢を見つけた。優ちゃんにもらって、優ちゃんが教えてくれた夢。

胸が軽く、透明に、そして輝き溢れていく気がした。自信を持って宣言することでこんなにも心持が違うのかと、私は驚きと喜びで満ちていた。

 優ちゃんも、白い歯を見せた満面の笑みを浮かべて「何も謝ることなんてないでしょ」と言った。

懐かしいその笑顔が嬉しくて。でも、当時のまま動けない優ちゃんを見るのが苦しくて。

ぐちゃぐちゃに壊れた感情が、涙へとつながって、気づけば口角を上げたまま嗚咽が止まらなくなっていた。

 そんな私に、今度は優ちゃんがそっと手を伸ばしてくる。何も感じないはずなのに、触れた背中は暖かく感じた。

「希衣、あたし、謝らなきゃいけないことがあるの」

「……な、なに?」

 そばにあったティッシュ箱から三枚ほど取り出し、止まらない涙と鼻水を拭き取りながら聞いた。まだ息が乱れていて、細かく酸素を補充する。

「あのね……。あたし、許されないことした。ほんとに、あの、許してもらおうなんて思ってないから。あたしの自己中心的な思いのせいで……。本当にごめん」

「ど、どうしたの? 優ちゃんは何も悪いことなんてしてないよ?」

 あまりに申し訳なさそうに俯く優ちゃんにそう言うと、今度はきゅっと目を瞑って、何度も首を横に振った。

「違うの。あたし、今生きて書くことができる希衣が羨ましくて、悔しくて。
希衣の夢が小説家だって気づく前は、自分の夢でもないのに作家になられるのが嫌だったし、希衣には自分の夢を持ってほしくて……それで……。何度か希衣の応募した作品、落としたの」

 私はしばらくその言葉の意味を理解できずにいた。

落とした? だって優ちゃんは、言ってみれば幽霊だ。どうやって落とすことができるの?

ぐるぐると考えをめぐらせていると、優ちゃんは何か危ない物を扱うかのように、頭の黒い角を触った。
その様子を見て、先ほど私が椅子から落ちたことを思い出す。

「あたし、天国にいたの。そこで天使が、最近希衣が夢に向かって頑張ってるって言うから、気になって降りてきた。
でも、そんな汚い感情が生まれて……悪魔になっちゃったの。
悪魔は天国に帰れなくて、ずっと希衣の周りをウロウロしてた。
希衣が応募した出版社にも行った。そこで希衣の作品が高評価されているのを見て……また黒い気持ちが溢れてきて、角も伸びて。
そしたら希衣の作品、落とされちゃった……。何度も、何度も……」


 自分が犯した罪の大きさは計り知れないというように、優ちゃんは俯いたまま肩をすくめ、拳を固く作っている。

その出来事を知って、確かに私は悲しかったし辛かった。
でもそれ以上に、書きたいのに書けない優ちゃんの気持ちが痛いほど伝わってきて。

私自身の夢を見つけることができるようにと思ってくれていたことも、複雑な感情だけど嬉しく思った。

「大丈夫だよ。落ちたのは残念だけど、優ちゃんがいなくても落ちていたのかもしれないし。
なるべくしてなるものだよ。
私が小説家になりたいんだと気づくのを、待っていたのかもしれない。そしてそれを教えてくれたのは、優ちゃんだから」

 優ちゃんは不安そうな表情で顔を上げた。私はそれに応えるように、微笑み返す。

「だから次は絶対入賞する。させてみせる。私は私を信じてる」

 私は精いっぱい笑った。それが私の答えだ。

恨みなんてしない。だって私は生きているから。短い人生かもしれないけれど、まだ書くことはできるから。

一年以内になれなかったとしても、これから何十年かかったって、やろうと思えばできる。

兼業なり趣味なり、続けることはできるから。

私は私の夢を、絶対に叶えてやる。

優ちゃんにもその思いが伝わったようで、固い表情が柔らかく溶けていった。

「なれるよ。絶対なれるよ! だってあたしの親友だもん! 出版社に高評価されるくらいすごい才能の持ち主で、努力家で、優しい希衣なんだから。あたしも、希衣を信じてる。ずっとずっと応援してるから」