一通り見てははしゃいだ琴葉は、急に眉を下げて雄大に問う。

「雄くん、やっぱり私の家に住むのはやめた方がいいんじゃない?」

「どうして?」

「だって、ここはこんなに素敵なのに、うちはボロいし眺めもよくないし。」

琴葉の家と雄大の家を比べると雲泥の差がある。
比較すると、なおさら雄大を琴葉の家に住まわせるのは抵抗感があり、申し訳ない気持ちになってしまう。
こういうところで、しがないパン屋と大企業の副社長という身分差を感じてしまうのだ。

琴葉の心配とは裏腹に、雄大は呆れたため息をつく。

「正直、ここは俺の家だけど、毎日寝に帰ってきているだけだし、ここに住んでいるのがもったいないなと思っていたんだ。使ってない部屋ばかりだしね。」

「そうなの?」

「そうだよ。琴葉はここに住みたい?琴葉がこっちに来ても良いんだよ?」

「え?えっとー。」

雄大の質問に、琴葉は殊更困った顔になった。

とても綺麗でおしゃれなマンションは琴葉にとってまったく縁のないものだ。
眺めもよくてセキュリティもしっかりしている、こんなところに住めるチャンスはなかなかない。
だが、雄大の提案は魅力的だが、すんなり頷けるほどの意思は持ち合わせていなかった。