琴葉は急に不安になって雄大に詰め寄る。

「いつもそんな時間かけて帰ってるの?」

「そんなに遠くないだろ?」

「遠いよ。疲れちゃうよね。体調は大丈夫?」

「大丈夫だよ。」

あまりにも琴葉が心配そうな顔をするので、雄大は琴葉を落ち着かせるため頭を優しく撫でる。

「あの、会社までって、うちからの方が近いんでしょ?」

「だいぶね。歩いて行ける。」

雄大の勤める早瀬設計事務所は、琴葉の自宅から歩いて15分もかからないくらいの距離にある。
だから、昼休みにパンを買いに来ることもできるし、そのおかげで二人は出会ったといっても過言ではない。

「じゃあ、うちから通ったらいいのに。」

ボソリと呟いた言葉に、雄大は首を傾げる。

「琴葉、それって一緒に住もうって言ってる?」

「えっ、あっ、いや、違っ、いや、違わないけど、えとえと。」

とたんに頬が赤く染まり、あわあわと慌て出す。
自分がとても大胆な発言をしてしまったのではないかと、琴葉は無駄に緊張した。
そんな琴葉に、雄大はとびきり優しい笑顔で答える。

「琴葉さえよければ一緒に住もうよ。俺は今からでも全然問題ないけど。」

「で、でも、うちでいいの?」

「どういうこと?」

「だって古い家だし。」

この家は、琴葉の両親が結婚するときに建てたものだ。かれこれ築30年程になる。
そんなところに、早瀬設計事務所の若き副社長である雄大を住まわせていいものか、恐縮してしまう。
けれど雄大は、そんな琴葉を優しく抱きしめながら、

「琴葉がいれば何も問題ないよ。」

と頬に軽くキスをした。