まるで意味がわからず苛立つ雄大に、琴葉が興奮気味に言う。

「私たちすごく素敵なご縁があったんですよ。このお店、お父様がデザイン設計したんですって!」

「え?」

「雄くんも、このお店素敵だって言ってくれましたよね。私、今すごく幸せです。お父様とうちの父が友人で、お父様がデザインしたお店で働けて、そんな素敵な環境で雄くんと出会えただなんて、夢を見ているみたい。」

嬉しさで胸がいっぱいになっている琴葉はまたじんわりと涙を浮かべる。
事の真相を聞かされた雄大はにわかに信じられないといった様子だったが、琴葉の無邪気に喜ぶ姿にほだされて、いつの間にか怒りは収まっていた。
そんな二人を微笑ましく眺めながら、社長は雄大の肩をポンと小突く。

「雄大、琴葉さんがいいお嬢さんだということはよくわかったよ。大切にしなさい。」

「言われなくとも。」

「では琴葉さん、仕事中にすまなかったね。」

「あ、待ってください。いくつかパンを包みます。」

帰ろうとする雄大の父親に、琴葉は慌ててカウンターへ入ろうとする。

「いや、今日はこれから取引先と会食があるから遠慮するよ。今度改めて買いに来るとしよう。それから雄大、今から三浦建設と業務提携の話をしてくる。三浦のお嬢さんは今年度末で辞めるそうだ。自分の家を継ぐらしいな。賢い子だが、まあ、もともと勉強のためにうちに入ったようなものだからな。」

そう言い残して、社長は颯爽とminamiを後にした。


残された二人は顔を見合わせる。
どちらからともなく柔らかく微笑んだ。

「お昼、パンでも食べます?」

「そうするよ。琴葉が焼くパンは世界一だからな。」

雄大の何気ない褒め言葉に、琴葉はうっすらと頬を染める。

小さなパン屋minamiは今日も幸せな空気に包まれていた。


【END】