深いため息とともに、綾菜は頭を下げる。

「琴葉ちゃん、疑ってごめんなさいね。」

「え?」

「あなたがお金目当てで雄大に近付いたと聞いたもので、本当はそれを確かめに来たの。」

「そうだったんですか。」

「だけど来てよかったわ。やっぱりあなたはいい子だってわかったから。」

「綾菜さん。」

優しい眼差しを向けてくれる綾菜に、琴葉は嬉しくなって頬を染めた。

「先日はパンをありがとう。どれもとっても美味しかったわ。雄大が気に入るわけがわかったわ。」

「ありがとうございます!でも雄大さんにはお別れを告げました。」

「え?なぜ?」

驚く綾菜に、琴葉は言いづらそうに目を伏せる。

「あの、迷惑をかけたくなくて。」

「雄大はなんて?」

「わかりません。海外出張で。メッセージは既読がついたんですけど。でもたぶん、呆れられたと思います。」

琴葉はだいぶ経ってからメッセージに既読が付いていることを確認した。
その後雄大から返事はない。
期待はしないと心に誓ったはずなのに、気になって何度もメッセージを開いてしまう。
そんな女々しい自分にもさよならしたかった。

「そう、残念ね。でもあの子意外としつこいから、気をつけてね。」

綾菜は優しく笑うと、パンをいくつか買って「また来るわね」と言って帰っていった。

琴葉は清々しい気持ちでいっぱいになった。