雄大の帰りを待ち遠しく思っていた琴葉だったが、とんだ勘違いのような気がして仕方がなくなってしまった。
琴葉にとって雄大はとうてい縁がない雲の上のような人であり、そんな人が自分を好きになるなんてありえない。

「彼女さん、綺麗だったなぁ。」

ポツリと呟いた自分の言葉に、また落ち込む。
シワのない綺麗なスーツを着こなしていた杏奈の姿を思い出し、はぁとため息が出てしまう。

「そうだよ。あんな綺麗でスタイルもよくてキャリアウーマンな感じで。早瀬さんにはそういう人が似合うよ。」

ひとりごちては、先日までの楽しい日々を思い出して目頭が熱くなった。

琴葉には出張と言いつつ、本当は彼女と旅行をしていた雄大に幻滅をしたいのに、なぜだかそれができない。
彼女がいるくせに琴葉にも好きだと言う。
遊ばれているのかと、そんな風に思いたくないのに考えれば考えるほど虚しくなってきて、琴葉は振り払うように頭をブンブンと振った。

closeの看板をかける頃、いつもなら雄大がやってくる。
でも今日は来なかった。
海外から帰国しているハズなのに、来なかった。
琴葉は店の入口の鍵を閉めてから明日の仕込みに取りかかる。

期待してしまった自分に腹が立ち、何も考えたくなくていつも以上に無心で作業に没頭した。