立派な暖簾の付いた寿司屋の前で琴葉はまた立ち尽くして、ポツリと呟く。

「私、回転寿司しか行ったことないです。」

雄大の横で琴葉は焦り、どんどん顔が青ざめていく。

「た、高そう…。」

呟いた声に、雄大は首を傾げる。

「もしかしてお金の心配してる?」

琴葉がゆっくりと頷くと、雄大は琴葉の頭を優しく撫でた。

「今日は俺のおごりだから。琴葉は出さなくていいんだよ。」

「えっ、ダメです。」

「いいの、琴葉は今日はお姫様なんだから。」

“お姫様”という魅力的な言葉と、爽やかにそう言う雄大に丸め込まれて、琴葉は何も言い返すことができない。

そんな琴葉の背を押して、雄大は慣れた足取りで暖簾をくぐった。