それでも雄大は気にした様子もなく完全に仕事モードになっていて、パンを噛りながらもマウスを巧みに動かして図面を確認している。
杏奈は苛立ちをぶつけるように、

「そういえば今日の15時からの打合せ、16時に変更になったからね!わかった?」

そう強い口調で言い放って、ふんっと鼻をならして去っていった。
それと入れ違いで、藤原がやってくる。

「副社長、お戻りでしたか。15時からの打ち合わせですが16時からに変更になりました。」

「ああ、さっき聞いた。」

予定変更を告げる藤原に、雄大はため息まじりに答える。

「三浦さんですか?」

「ああ。あいつは俺の秘書にでもなりたいのか?藤原さんより世話を焼いてくるんだけど。」

「困ったな、私の仕事を取られてしまいますね。」

さして困った風ではなくむしろ面白がっている様子の藤原に、雄大は大きなため息をついた。

「まったく、どいつもこいつも…。」

ぶつぶつと呟きながらも、3つめのパンに手を伸ばす。
りんごのフィリングとカスタードクリームの程よい甘さが口にいっぱい広がって、体が癒されるようだった。