趣のある静かな旅館で美味しい夕食と心地よい温泉を堪能して部屋に戻ると、すでに布団が二枚並べて敷いてあった。
自宅でも毎日隣同士で寝ているのに、場所が違うだけで妙に意識してしまって、琴葉は何だかドキドキしてしまう。

「琴葉、おいで。」

先に布団に入った雄大が、掛け布団を開けて琴葉を招き入れる。

琴葉は照れながらももぞもぞと入っていくと、雄大は待ちきれんばかりにすぐさまぎゅうっときつく抱きしめた。

くっついているだけであったかくて幸せな気持ちになる。
幸せが体いっぱいに広がっていき、琴葉は目を閉じてしばし微睡んだ。

「琴葉。」

ふいに呼びかけられて目を開ける。

「うん?」

「結婚しよう。」

「…え?」

突然のことに琴葉が顔を上げると、熱っぽい眼差しの雄大に図らずともドキリと胸が高鳴った。

「ずっと琴葉と一緒にいたいんだ。琴葉と人生を歩んでいきたい。俺と結婚してください。」

琴葉はこれ以上ないというくらい胸がぎゅううっと締め付けられた。
嬉しすぎて言葉にならないほどの感動が押し寄せてくる。

「もう十分幸せなんだけど、これ以上幸せになってもいいの?」

「うん、幸せになってよ。いつも俺の隣で笑ってて。」

「うん。」

「愛してる。」

「…うん。」

涙が込み上げてきて、最後は言葉にならなかった。
ポロポロとこぼれ落ちる涙を、雄大はそっと掬い上げる。
そのまま優しく頬を撫でたかと思うと、琴葉の柔らかな唇にそっと口づけた。

優しい優しいキスだった。