幹線道路から少し奥まった住宅地の片隅に、控えめな立看板がある。
可愛らしい手書きのようなあたたかい字体で【小さなパン屋さん minami】と書かれていた。
ガラス張りで明るい入口は大きく開けていて気軽に入りやすく、また、外には木目の柔らかい木のベンチが設えられている。

中に入ると、パン屋にしては狭いスペースしかなく、代わりに大きなショーケースが出迎えてくれる。
オープンなパン屋と違って、ここは珍しくショーケースから選ぶスタイルのパン屋だ。それはさながら洋菓子店のように。

「琴葉ちゃん、おはよう。」

開店と同時に入ってきたのは近所に住む女性だ。

「おはようございます、おばあちゃん。」

小さなパン屋minamiの店主、南部琴葉は明るい挨拶と共にとびきりの笑顔を見せた。

「いつものいただくわ。」

「はい、かしこまりました。お待ちくださいね。」

琴葉はショーケースからコッペパンを2つトレーにのせると、紙袋に丁寧に詰めた。

「焼きたてなので少し袋の口を開けておきますね。」

「ありがとう。はい、お金。」

琴葉がレジを打つ前に、女性はキャッシュトレイに100円玉を4枚置いて、紙袋を抱えて帰っていった。
その後ろ姿を追うように、「ありがとうございました」と琴葉が挨拶をする。

そんなご近所さんから愛されているパン屋。
今日もいつも通りの一日が始まるのだ。