今日のお相手は大道具係の新人だ。そいつが原付で帰ることを知ってたから駐輪場で待ち構えていた。
 一人で食事するのは嫌い。けれど若い頃みたいに多人数に囲まれて賑やかにやる元気もないから、こうやって聞き分けの良さそうな若者を物色しては有無を言わさず連れて行く。
 かつての銀盤の大スター。舞台の主演女優がこうやって夜な夜なスタッフを誘うことくらい先輩に聞かされているだろう。機嫌を損ねられたらたまらない。みんな逆らったりしない。分かっているから安心して声をかける。
 行きつけのステーキハウスで気前よく1ポンドステーキを振る舞う。愛想よく礼を言い思いもよらぬ御馳走にありつくあまり頭の良くなさそうな食べ方の青年を見つめる。そうして自分は海老料理をつつきながら白ワインを舐める。
 場合によってはこの後ベッドの中に引きずり込むけど、今夜は気分じゃなかったみたいだ。お好みなのはもっと線が細くてナイーブなタイプだものね。
 ひとりの部屋に戻ってシャワーを浴びる。無駄に大きなベッドの上でドライヤーで髪を乾かし始める。どうしてこんなに大きなベッドを買ってしまったのか、今となっては覚えていない。寂しさを増長させるだけなのに。
 髪を乾かす時間を持て余して、まだ半乾きの状態でドライヤーを投げ出す。ワインを持って来てまた飲み始める。なんて悲しい姿。ひとりぼっちだ。かつて跪いた男たちはみんな去って行った。自分が悪いんだよ。誰も信じなかったから。
 酔いが回ってきてどさりとベッドに横たわる。乱れた髪の間からとろんとした目があたりを探し回る。何もない。誰もいない。潤んだ瞳を閉じてつぶやく。
「ミーナ」
 ここにいるよ。鳴いてみるけどあんたには分からない。
「ミーナ……」
 あたしが人間ならよかったのに。猫じゃあどんなに頑張っても二十年かそこらが限界だった。
「ミーナ……」
 バカだなあ。とっくの昔に死んじゃった飼い猫の名前を呼び続けるほど寂しいの?
 そのまま何も掛けずに寝てしまった淋しい姿に目を細める。不安で心細そう。だけど大丈夫だよ。わかるんだ。あんたの命の芯がどんどんどんどん短くなっていくのが。
 もうじきあんたもあたしと同じ場所に来る。嬉しいでしょう。また一緒にいられるよ。あたしは嬉しいよ。
 あんたの手に耳を摺り寄せて頭を撫でてもらうんだ。やわらかい膝に乗って昼寝をするんだ。楽しいよ。
 だから早くこっちにおいでよ。