ああ、そんなこと。

 俺はがっつり肉でも食べたい気分だというのに。

 母さんが出ていき、医師と看護師も出ていき、一人残されたベッドの上でしばしの静寂を過ごす。

 ミーンミンミンミン。

 さっきまでの母さんを思うと蝉の鳴き声をうるさいとは思わなくなっていた。

「成流。父さんもう話はしちゃったしやっぱり心配だからって今からこっちに来るって。今先生にも詳しい話も聞いてきたし父さんが来たら帰るわよ」

 ほんの少しだけ満たされた胃袋に、一週間近く眠っていた割に睡魔が襲ってきてウトウトしていると母さんがまたドタドタドタと入ってきて忙しなく話しかけてきた。

「じゃあ支度しないと」

「そうね。そのいかにも病人ですなんて服は脱いじゃって自分の服に着替えちゃいなさいな。母さんはちょっと飲み物でも買ってくるわ」

「あ、じゃあ俺の分も」

「はいはい。戻るまでに着替えちゃって頂戴ね。落ち着かないのよ、そのいかにもな服」

 ブツブツと、母さんは再び病室の外へと消える。