不思議と海水の冷たさは感じなかった。

 恐怖とか不安も全く感じなかった。

 ただただ静かだった。

 何もかも全部が静かに目の前を移ろっていた。

 心地よかった。

 何もかもを遮断したその世界は、だけど何もかもを内包していた。

 その中に浮かんでいるととても軽くなれた。

 その時、大きな波が俺を深くまで飲み込んだ。

 もし抵抗していたなら再び浮かび上がれたかもしれない。

 だけど俺は抵抗をしなかった。

 そのまま深く深く沈んでいくのをそのまま受け入れた。

 そのはずなのに、俺は次の日になると自分の布団の上で目覚めた。

 あまりに普通に。

 何事もなかったかのように。