夏休みが始まるまで彩蓮を忘れていられるのも、母さんに言われて最初は思い出せなかったのも、今までの記憶が曖昧なのも、こうやって泣いているのもその理由を俺はどこか深いところで大事にしまってきた。

 あの日。

 終業式の帰りに一人で海を見に行ったあの日。

 俺は確かに海の中へと深く歩いて行った。

 地平線に沈んでいく夕日を真っすぐに捉えながら、ゆっくりゆっくり足を踏み出した。

 最初は砂の上を歩いていた。

 でもすぐに足元には海水が現れて、それでも俺は真っすぐに歩き続けた。

 海水が踝で跳ねた。

 更に進むと次は膝を、胸を、頬を跳ねた。

 日が沈みきるのと同じタイミングで、俺の視界からは水平線が途絶えた。