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「一紫ちゃーん、今帰り?」

「あー、おお」

部活終わりの帰り道、駅の改札を出る時にいつものように声をかけてきたのは、同じ中学で野球部の透だった。

中学のとき同じクラスになってから、気の合う同士としてずっと一緒にいる。

「惜しかったな、準優勝」

俺の隣に並んだ透の背負うリュックのファスナーがいつものように半分開いていて。そんなことが俺の気持ちを落ち着かせる。

「んー、だな。俺のパス、植木が諦めてさ、取らねーんだよ」

「あー、最後のあれな。見てたよ。あれはねーよな。もう少しで取れそうだったのに」

こいつには、何でも話せる。

そしてきっと、俺と同じ気持ちでいてくれる。そう信じられるヤツだった。

「え、見てたのか?」

「おん。けっこういい試合だったのになぁ。なんで諦めるかな」

ほら、そうだろ?

「だよな、あいつら負けたっていうのにさヘラヘラして。なんか腹たってきて、一言言ったら、なに球技大会で熱くなってんだよ、なんて馬鹿にされるし。もう、分かんねー」

両手をあげて伸びをするように空を見上げる。夕焼け空が眩しく照らす。

「あはは、どうした?珍しくくすぶってんじゃん」

「いやぁ、翠にまで同じようなこと言われてさ、もうワケ分かんなくなってきて」

一緒に、同じ夕焼けのオレンジを見上げる。きっと2人には同じ色に見えているはずだ。

「ま、おまえは顔もよくて成績もまあまあで。運動もできて、あんな可愛い彼女がいて。完ぺきすぎんだよ。ちょっと悩みでもないとさ、みんなひがむだけだぜ」

「は?なんだよそれ。慰めになってねーし」

一緒に悩んでくれるワケでもなく、同情するわけでもない。ただ、俺の気持ちを受けとめて、軽い言葉で俺の気持ちを楽にしてくれる。