街路樹の楓はもう美しい黄色や橙色に色を変え、朝晩は少しずつ冷えるようになっていた。
毎週のように校内考査、校外模試が続き、その復習だけでも結構な労力ではあったが、那月は倒れてから自分のペース配分を守り睡眠も十分とるようになった。
夏休み中はあの茶色の鉄剤の点滴に週1で通ったが、暑さが去るのと共に貧血の治療も白い鉄剤の内服だけで済むようになり、病院通いが減ったことで勉強に当てる時間が増えた。
毎日が目まぐるしく、一瞬で時が過ぎて行った。
正月も返上で毎日机に向かった成果を出す時が来た。受験本番、第一志望の国公立の前に、センター試験である。
自己採点でトータル850オーバーだった那月は、私大はセンター出願で1校受験し、自分の腕試しでややランクの高い私大も一つ受けた。
センター出願が合格、もう一つは補欠だった。
そして本命の国公立大学。緊張で押しつぶされそうになりながらも那月は鉛筆を走らせた。
***
国公立合格発表の朝。いつものように自転車に乗って駅まで行く。いつもとは反対方向のホームに降りる。
電光掲示板を見ながら乗り換えの駅を考えていると声をかけられた。
「紺野さん?」
聞き覚えのあるその声の方を見るとそこには以前助けてもらったヤマナカエイスケがいた。
半年以上ぶりのヤマナカエイスケは髪が伸びていて、でも以前と変わらず柔和な笑顔を見せた。
「同じ駅のはずなのに会わないなと思ってたんだよ。」
「今日は学校じゃなくて、大学の合格発表に行くので反対のホームなんです。」
「そういうことか。体調はどう?もう平気?」
「はい、すこぶる元気です。その節はありがとうございました。」
那月はハキハキとお礼を言いながら思い切りお辞儀をした。元気でよろしい、とヤマナカエイスケは再び笑った。那月とヤマナカエイスケは3駅先まで一緒に地下鉄に乗った。
「じゃあ、またいつか。」
「はいまたいつか。」
「いい結果だといいね。」
そう言って、扉が閉まってからもヤマナカエイスケは手を振り続けてくれた。
ヤマナカエイスケと他愛ない話をしたことで緊張が少しほぐれ、那月は軽い足取りで大学へ向かった。
那月は広い大学の中で人だかりを見つけるとゆっくり歩みを進めた。緊張で心臓が喉から出そうだった。なんの信仰もないけれど、こんな時ばかりは人は神頼みになるものだった。
どうか、どうか、報われますように、と両手で受験票を握り締めながら、数字の羅列した掲示板を見つめる。
00120025...00120025...00120025......
「あった。」
小さく独り言を言って、小さくガッツポーズをした。スマホを取り出しふと、ヤマナカエイスケにも結果知らせたいとも思ったがそれは叶わぬ事だった。
ひとまず、両親に連絡を入れて、学校にも連絡した。
毎週のように校内考査、校外模試が続き、その復習だけでも結構な労力ではあったが、那月は倒れてから自分のペース配分を守り睡眠も十分とるようになった。
夏休み中はあの茶色の鉄剤の点滴に週1で通ったが、暑さが去るのと共に貧血の治療も白い鉄剤の内服だけで済むようになり、病院通いが減ったことで勉強に当てる時間が増えた。
毎日が目まぐるしく、一瞬で時が過ぎて行った。
正月も返上で毎日机に向かった成果を出す時が来た。受験本番、第一志望の国公立の前に、センター試験である。
自己採点でトータル850オーバーだった那月は、私大はセンター出願で1校受験し、自分の腕試しでややランクの高い私大も一つ受けた。
センター出願が合格、もう一つは補欠だった。
そして本命の国公立大学。緊張で押しつぶされそうになりながらも那月は鉛筆を走らせた。
***
国公立合格発表の朝。いつものように自転車に乗って駅まで行く。いつもとは反対方向のホームに降りる。
電光掲示板を見ながら乗り換えの駅を考えていると声をかけられた。
「紺野さん?」
聞き覚えのあるその声の方を見るとそこには以前助けてもらったヤマナカエイスケがいた。
半年以上ぶりのヤマナカエイスケは髪が伸びていて、でも以前と変わらず柔和な笑顔を見せた。
「同じ駅のはずなのに会わないなと思ってたんだよ。」
「今日は学校じゃなくて、大学の合格発表に行くので反対のホームなんです。」
「そういうことか。体調はどう?もう平気?」
「はい、すこぶる元気です。その節はありがとうございました。」
那月はハキハキとお礼を言いながら思い切りお辞儀をした。元気でよろしい、とヤマナカエイスケは再び笑った。那月とヤマナカエイスケは3駅先まで一緒に地下鉄に乗った。
「じゃあ、またいつか。」
「はいまたいつか。」
「いい結果だといいね。」
そう言って、扉が閉まってからもヤマナカエイスケは手を振り続けてくれた。
ヤマナカエイスケと他愛ない話をしたことで緊張が少しほぐれ、那月は軽い足取りで大学へ向かった。
那月は広い大学の中で人だかりを見つけるとゆっくり歩みを進めた。緊張で心臓が喉から出そうだった。なんの信仰もないけれど、こんな時ばかりは人は神頼みになるものだった。
どうか、どうか、報われますように、と両手で受験票を握り締めながら、数字の羅列した掲示板を見つめる。
00120025...00120025...00120025......
「あった。」
小さく独り言を言って、小さくガッツポーズをした。スマホを取り出しふと、ヤマナカエイスケにも結果知らせたいとも思ったがそれは叶わぬ事だった。
ひとまず、両親に連絡を入れて、学校にも連絡した。