昔はどれも、1丁焼きだった。
重たい鉄板をくるくるとひっくり返し、その時に聞こえる音が、がしゃんがしゃんと響き渡っていたものだ。
1丁焼きはどれも『天然』と呼ばれ、親しまれていた。
それがいつからだろう?
一気にたくさん焼ける、量産型の鉄板が出回り始めた。
世間の移り変わりにともない、たい焼きの焼き方もシフトチェンジしていく。
今となっては、1枚ずつ手焼きをしているほうが珍しい。
特に今は、変わり種のたい焼きで溢れている。
カスタードなんてのはその代表格で、チョコレートや栗、季節に応じて中の餡を変えるのが一般的だ。
『こないだよ、たい焼きの中にしらすが入っててよ。ツバ吐きかけてやったぜ』
と、とても同じ食べ物を扱っているとは思えない源さんの発言だが、それらを1枚焼きで焼くわけにはいかない。
だから余計に希少価値が高まり、量産型は『養殖』と揶揄されるようになった。
僕からしたら、味はさほど変わらない。
多少、出来上がりのかたさが違うが、そもそも生地が違う。
ぱりぱりか、1日経ってもしっとりしているか、それぞれの特徴があって面白いんじゃないかな?
そうこうしているうちに、焼きあがった。
食べれば時代を遡ることも、進むこともできるたい焼きが。
お客さんはいない。
食べるのは__僕だからだ。