【1丁焼き】の鉄板は、ずしりと重い。

フタを開け、ちゃっきりで生地を落とす。ほんの数滴、腹の辺りに。


量産型とは違い、生地はそれほど広がらない。



早めに何度もひっくり返すため、緩いと垂れ落ちてしまう。それは固めに焼き上げるためでもあり、粉を強めに配合してある。

あんこは、同じもので大丈夫だ。


甘味が少なく、それでいて水っぽくない、ありきのあんこ。

実は、あんこそのものが苦手だというひとに、ありきのたい焼きは好んで食べてもらえていた。しかも、2枚はぺろりとイケる。



ただ、あんさしで差し込むわけにはいかない。細長いへらで形を作り、生地に押し込んで広げていく。その上に再び、ちゃっきりで生地を落とす。

すぐに蓋をし、火にかける。


1丁焼きの焼き方は、煎餅に似ていた。

吾郎さんも、流れる汗を拭うことなく、長い菜箸で煎餅をひっくり返している。適当に挟み込んでいるようで、どれを返せばいいのか体に染み込んでいるんだ。


焼いている時の吾郎さんは、凛々しくてカッコいい。

あくまで、焼いている時の吾郎さんは。



細かくひっくり返して、じっくりと焼き上げていく。

量産型とは違い、1枚1枚と向き合っている、そんな感覚だった。