最後のたい焼きが売れると、僕はその場にへたり込んだ。
「なんでぇ、情けない。ほら、今から笹流し行くぞ。用意しとけよ」
そう言い残して、源さんたちは去っていった。
あれだけのお客さんをさばいたというのに、全く疲れが見えない。
恐るべし、四銃士ならぬ、四爺士。
七夕祭りが終わると、商店街のみんなで笹流しに行くのが恒例となっていた。
しかし、竜巻に襲われたように汚れている店内の中で、僕は動けずにいる。
「なにボーッしてるのよ?魂が抜け落ちたみたいに」
やってきた牧子さんは、からからと笑った。
「はい、これ」と手渡されたのは、浴衣だ。
「源さんから預かったの。自分で着られる?」
「なんとか、大丈夫です」
「そう。私も浴衣を着るから、あとでね」
恐らく一日中、揉み続けていただろう牧子さんも、元気そのものだった。
えんじ色の浴衣は、麻でできていた。
ちゃんと角帯もある。
さっと店の片づけをしてから、奥で浴衣に着替えた。
自慢じゃないけれど、帯も結べるんだ。
『帯は腰じゃなく、腹で締めるのよ』
師匠の声が、聞こえた気がした。
どうですか?
少しはうまく着こなせるようになったかな?