「………幸せになんてならなきゃいいと思ってた」
「っ……ごめんなさ」
「なってなきゃいいと思ってた」
「っ…………」
「俺のいないところで、……俺の前以外で……幸せそうにしてるピヨちゃんがいるとか嫌で……許せなくて」
「………」
「また……水も貰えずに日陰で耐え堪えてればいいって」
「………」
「そんな最低で身勝手な事を思って過ごしてたら……まさに枯れ切ったピヨちゃんがそこにいて。俺が願っていたように満たされない関係に疲れ切って不幸せそうで………そんなピヨちゃんの姿に言いようのない歓喜を覚えた嫌な男なんですよ、俺は」
「………」
「それなのにピヨちゃんの俺に向ける目は変わってなくて。今も昔もいい人だと縋る物で。昔みたいに『先生』って……縋りついて求めてくる姿に歓喜と同じ分罪悪を覚えて」
「っ……先生」
「懺悔した」
「………」
「今言った事全部洗いざらいあの夜にも」
そんな事が……あったのですね。
一度あったのだと言われても自分にとっては今まさに聞いたばかりの感覚で。
先生のどこか苦悶滲む無表情も目新しく今に突き刺さる。
あの夜も……こんな表情をしていたんでしょうか?
その時の私は先生にどんな事を思っていたのか。
酷いと恨んだ?
同じ感情を抱いていたのだと小さくも歓喜した?