思い当るのは……あの日のあの瞬間しかない。

瞬時に脳裏に再生されるのはまだ新しいと言える制服を纏って、形ばかりの笑顔を貼りつけた幼い自分の姿。

そんな脳内の再生を見透かしたかのような先生の眼差しと小さな息と、

「『幸せに』なんて露ほど思っていなかった癖に」

「っ……」

「下手くそな笑顔を張り付けて、嘘つきな言葉をまるで心からの声だって言わんばかりにまっすぐにぶつけて」

「そんなこと…」

「ピヨちゃんはね、嘘をつく時ほど笑顔でまっすぐに相手の目を見つめてくるんだよ」

「っ……」

「後ろめたい事なんてない。そう証明するように……逸らさない」

「………」

「ピヨちゃんをよく知ってる俺には、笑顔も、まっすぐぶれない眼差しもすべてが呪いの様に感じたよ」

「ちがっ……」

「少し見ない間に思ってた以上に綺麗に大人びていた姿まで全部」

「っ……」

「呪うように去っていった姿が残酷な程綺麗で。咄嗟に手を伸ばそうにもまだ手を掴むには俺とピヨちゃんの距離は遠くて。それが現実で」

「………」

「現実を受けとめるように決まっていた見合い相手と結婚して……離婚して……味気のない人生ですよ。そんな中嫌でもフラッシュバックするのは最後に見たピヨちゃんの姿で。………呪いでしょ?」

「っ……」

フッと軽く口の端を上げた姿に『違う』なんて否定の言葉は返せない。

だって、どんな綺麗ごとで否定をしようとしてもそれは嘘で。

先生の言う通り。

幸せになんて微塵も思ってなかった。

祝うどころか恨み妬みの心でいっぱいで。

呪いで違いない。