まるで立場の逆転。
一瞬で罪人は先生の方になってしまって。
理解の及ばぬ事態に言葉も失ってただ立ち尽くしていれば。
「……俺はね、善人でもなければ悪人でもないんですよ」
「えっ?」
「人を特別に好く事もなければ好かれる事もない。自分の感情を誰かと同調しようと思わなければ、同調してほしいとも思わない。実に……つまらない人間なんですよ」
「そんなこと……」
「周りに広がる多彩に無関心で無興味で人として欠陥で、」
「っ……先生はそんなんじゃっ…」
「ピヨちゃんだけが……」
「っ……」
「……俺の関心を掠めたんですよ」
まるで、自分自身にまで無興味だと示すように語られる淡々とした口調と表情と。
その視線は客観的に内部の自分を見つめているかのようにどこか遠くて。
なのに、スッと現実に戻るようにこちらを向いてきた双眸は実に人間臭くて。
貪欲で。
「ピヨちゃんだけが……俺の感情がまともに動く存在で」
「………」
「名前に反して日陰で咲いてるような健気さにどうしてか惹かれて」
「………」
「日陰に咲く花に水を与え続けたら、自分だけは呆れず愛情を注いだらどんな花に成長するのかって」
「………」
「俺だけの知る……特別な花になるんじゃないかって」
「っ……」
「……勿論、あの頃で大人と子供だ。恋情とは程遠く、それどころか性質が悪いと言える身勝手な独占欲だったと思う。男女として在るには自分の欠陥した感覚でもあり得なかったし、ただ…独り占めして見ていたかっただけ。………あの瞬間までは…ね」
「あの……瞬間?」
「ピヨちゃんが……俺に嘘をついた日」
「……嘘?」
「俺の前から……最初に逃げた日」
「っ……」
それは……あの日の事なんでしょうか?