ついさっき歩いてきた道を逆走して、もう踏み込むことは無いと思っていた先生の家の玄関に飛び込んで。

きっと勢いで脱いだ靴は片方はひっくり返っていたんじゃないかと思う。

それでもそんな事はどうでも良くて。

入り込んだ瞬間に鼻孔を擽った出来立ての朝餉の匂いの美味しそうな事。

でも、何で?

まるでこっちだという誘いの様で。

迷うことなく自分の足が向かったのは、手が伸びたのは台所に繋がるガラス戸で。

「っ………」

ガラリと勢いよく開いた先の視界に捉えるのは、ダイニングテーブルに並ぶ少々不格好な二人分の朝食と、頬に湿布らしきものを貼っている先生。

その手には私の書置きで作ったらしい紙飛行機を持っていて。

当然、その文面を読んだ後だという事は明確。

一瞬にして自分という存在に羞恥が走る。

今更、どの面下げてこの場にいるのかと。

逃げ出した癖に。

そんな後ろめたさから思わず言葉を探して下を向いた瞬間だ。

「っ……!!」

トンっと額にぶつかってきた衝撃にはパッと手で押さえながら顔を上げていて。

代わりに床に落ちたのは今程自分にぶつかってきた紙飛行機だ。

刹那……

「………おはよう」

「っ……おは……よう……ございます」

「……………おかえり」

「っ………」

「…………」

『ただいま』

そう言いかけた言葉は見事喉元で詰まって音にはならず。

だって……そうでしょう?

言っていいのか。

言うべきなのか……分からないんですよ。