この時間ならもう2人も起きている時間だろうか?

そんな事を思いながら小さく息をつくと玄関扉に手をかけて、カチャリと響いた音に小さく緊張しつつ。

「ただいまあ、」

あ、実家の匂いだ。

意を決して踏み込んだ我が家は緊張に反して懐かしく馴染みある匂いに満ちている。

あんなに抵抗を覚えていてもこの匂いを嗅いでしまえば不思議な安堵を覚えるのだ。

早くこうして帰ってれば良かったな。

そんな事を思いながら靴を脱ぎかけていたタイミングだ。

「えっ?日陽っ!?」

「ただいまお母さん」

「あんたどうしたの!?こんな時間に!」

「あー…、ちょっと色々あってさ。実は私…」

「先生はどうしたの!?ご一緒?」

「はっ……?」

複雑な苦笑いで帰京を告げた言葉はあっさり母の一言に摘み取られて消えた。

一瞬何を言われたのか理解が追いつかず。

そんな私を御構い無しに母は玄関扉を開いてまで外を確かめるのだ。

いや、…えっ?

先生って……何で?

そんな疑問には扉を閉めこちらを振り返ってきた母が自ら口を開き、

「あんたって子は。本当に昔から何も言わないとは思ってたけどこんな大事な事も言わないなんて」

「あの…お母さん?」

「てっきり今度は2人で報告に来たのかと思ったわよ」

「ちょっ…ねえ、待って?さっきから何の…」

「何のって、あんた先生と結婚してたって言うじゃない。昨日の夜に先生が一人で来られて頭下げてきたのよ?聞いてないの?」

「っ……知ら……ない…」

そんな話は知らない。