いっそ……捨て置いてくれたらいいのに。
捨て置いてくれていたのなら……こんな苦しい感情に苛まれる事もなかったというのに。
先生は医者であるのに……私にはまさに病そのものなんですね。
不治の病。
先生の甘さはモルヒネで、切れてしまえば途端に息苦しくて痛みが伴って。
ほらね…
私の恋は初恋から不毛。
手を伸ばしてはいけない恋であったのだ。
自分の汗ばんだ体も疲労もそっちのけ。
息だって乱れその腕は怠さに満ちているだろうに。
帰宅した自室のマットレスの上。
スルリスルリと帯や紐を解き、私の肌に触れ、最後にはブラジャーのホックまで緩めるのに。
その目に色めいた感情は一瞬にも浮かばないのだから…、
「…脈は…さっきよりマシだな。水はすぐ近くに置いとくぞ」
「……」
「……ちょっと出かけてくる。すぐ戻るが、」
医者としての診断をひとつ。
くしゃりと頭を撫でてくる感触は気持ちのいいものであるのに。
昔から大好きなものであるのに…。
「っ……セン…セ」
「………」
「先生…先生…先生……セン………セイっ_」
「………」
欲しくて欲しくて…、
拒まれているのにまだみっともなく足掻くくらい、
「____音葉、」
好きなのに。
「…………寝ろ、」
精一杯の最後の足掻きでさえなんの実も結ばずに、無情な扉の音にかき消されるのだ。
どんなに強い好意を持ってしても、私の恋情は好きな相手を自分に引き止める効力がない。
いつだってスルリと抜けていくそれに耐えて悶えて虚しさに涙を流すだけで。
『寝ろ』だなんて、言われるまでもない。
逃げ出そうにも気怠い体はまだ足を動かす事も困難なのだ。
出来るのは、静かに泣きながら持て余した未消化の熱が収まるのを待つ事だけ。