狐面を毟り取り、指輪を雑に外し捨てる。

一瞬は驚愕に呆けた先生も、私の指先が迷わず自分の浴衣にかかった時には血相を変え止めに入ったのだ。

そうして掴みにきた熱や感触には、身体の中に入り込んだ物まで込み上げかけて。

「っ……いやっ……離……」

「騒ぐなっ!」

一気に血の気の引いた顔はどれだけ青白いものであったのか。

冷静でない感覚でとにかく先生という存在を拒むようにもがいてみせるも、次の瞬間には大きな手に頬を挟まれ至近距離から一喝されたのだ。

焦りに怒気が少々。

僅かにも冷静さが回帰した意識で捉える先生の表情に感じとったもの。

ああ、冷静さが回帰してしまえば実に不快に満ちる気怠い体よ。

「……脈が弱くて速い、呼吸の荒さ。貧血だな」

実に手慣れた感じに私を座らせ脈を取り顔色、瞳孔を確認する先生はまさに先生で。

聞こえないくらい小さな舌打ちをひとつ響かせたかと思うと、軽々て私の体を抱え上げるのだ。

それにはさっきの今だ。

どうしても先生に対して自己防衛が働いてしまって、

「っ……やっ……下ろし…」

「無駄に体力使うな、死んでろ」

「っ……吐いちゃ…」

「吐きたきゃ吐けばいい」

決してしたくての拒絶反応じゃない。

だからこそ自分でコントロール不可のそれはもどかしくもあって。

吐いたら先生も汚れてしまう。

私を抱えて歩くのだって思うほど軽々では無いはずだ。

普通に歩くのでさえ体力を消耗するであろうに、登ってきた獣道を慎重に下るのだから。

せめても、と時折こみ上げる不快感を必死に堪えて飲み込むのだ。