出来る事なら気づかずに挨拶して去ってほしい。

そんな願望は淡すぎたらしく、しっかりと存在を確認された事にはそろりそろり振り返ってから会釈を一つ。

お面を取らずにいたら失礼な子だと思われかねないけど、今はその失礼印象でも構わない。

寧ろ、人見知りなんです。ってキャラを自分に言い聞かせてなるべく先生の姿の影に身を追いやっていれば。

「あらあら、先生も隅に置けない。こんな若いお嬢さんと一緒だなんて」

「日陽が居たらショック受けそうなだな、なあ?」

「あの子は本当先生だけには懐いてましたからねえ。」

ああもう、やめてお父さん、お母さん。

「あの子ったら一人暮らし始めてから本当に盆や正月しか返って来ないし、連絡もしてこないんですよ?もう25にもなって恋人の話も出てこないし」

うっ……それには言えない複雑事情がね。

「結婚の一つでもしてくれたらこっちも安心して放任してられるのにあの子ったら、」

いや、してます。

まさに今結婚しちゃってるのよ。

「先生を捕まえて長々と何を馬鹿な事言ってるんだ」

お、お父さん!!そうよ、もっと言ってやって!

早く切り上げさせて!!

「フフッ、お父さんはね日陽が可愛いひとだから結婚なんて話が出るのが嫌なんですよ。どんな相手でも一発は殴るって言うくらいに可愛がっちゃって」

「もうその位にしなさい。先生も困ってるだろう、お連れさんもいるのに」

すみません。なんて苦笑いで軽く頭を下げてくる父の姿には『いえ、』と軽い会釈を返してはみたけど複雑だ。

えっ?

何この何とも言えない複雑タイムは。

これも何かのお仕置きタイムなんだろうか?