ヤケクソに乗せた右手にスルリとはめられたのは如何にもプラスチックな玩具の指輪。
コレがエンゲージだとか世も末で、ガチで言っているなら普通の女の子は怒っても不思議じゃないと思うのに。
私にとっては……感無量。
だって…
「約束したからね。…次は赤いのを買ってあげるって」
覚えてたなんて。
「さあて、飼い狐ですって印もつけたし…行こうか」
そんな一言はスルリと手を絡ませながら。
すぐに程よい力に誘われて、カラリと下駄を鳴らしながら歩き出す。
徐々に近づく祭りの賑やかな音と匂いは心踊る物なのに。
どうしようか?
指輪ひとつで胸いっぱいだとか。
こんな玩具の指輪に。
でも、玩具だからこそ意味があって。
覚えてくれていた事に価値がある。
確かに約束してくれてましたね。
子供の時にもこうやって先生は玩具の指輪を買ってくれて。
あの頃から可愛げのない私は欲しくて見ていたくせに『いらない』なんて意地を張って。
当然、裏の本心を読み取れる先生は悪戯に私に追求する事なく、さらりと指輪を買い与えてくれたのだ。
『赤は売り切れちゃったんだって。また今度、一緒に来た時には赤いの買ってあげる』
『赤がいい』なんて言ってないのに。
『青』でも十分嬉しいのに。
それでも、嬉々を混ぜた感じに『うん』と言ったのは、『次』という約束の方に。
ねえ先生、
私、実はまだあの指輪持ってるんですよ。
リングの塗装は劣化して剥がれでだいぶみすぼらしくなってしまったんですけど。
こんな私が女の子らしくアクセサリーが好きなのも、それを生業にしてるのも根本はそこ。
私の根本はやっぱり……先生が強く影響している。