何をしに行くかは知らないけれど、先生にはきっと打開策が頭にあって。

だったら私は素直に言う事を聞いておくべきなんだと思う。

待っている間にも空の橙には濃紺が混じり始めて、同じように浴衣に身を包んだカップルや家族が何人も目の前を通り過ぎていく。

その都度知り合いじゃないか?と警戒し、なるべく顔を隠しながら先生を待ってどれほどか。

「……ほい、お待たせ」

「わっ!」

まさか去った方とは反対側から戻ってくると思わなかった。

まだかな?まだかな?と先生が去った方を頑なに見つめて待っていた私もどうかと思うけれど。

不意に背後に気配を感じたと同時、いきなり視界を覆う違和感には心底驚いてワタワタとしてしまった。

それでも、冷静になってみればどうやら視界は確保されていて、目の前には覗き込んできている先生の姿がきちんと見える。

まあ、物凄く視野は狭いけれど。

「っ……お面…ですか?」

「そ、それなら顔隠れるし、縁日の中で違和感ないでしょ?」

「いや、いい歳した大人は祭りではしゃいでお面とかしないと思うんですが。ってか、……こんな狐のお面とかまだ売ってるんだ」

「ひょっとこもあったけど?なんならそっち買ってきてあげようか?」

「いや、お狐様万歳ですよ。ってか、ひょっとこ付けた女と並んで歩きたいと思いますか?」

どう考えても嫌だろう?恥ずかしいだろう?

と、客観的な主観でモノを考えて突っ込んでみれば、

「別に、中身がピヨちゃんなのには変わりないし」

「っ………」

ほら来たよ。

ナチュラルな殺し文句。