「………ほい、…完成」

「………ありがとう……ございます」

あ、良かった。

普通の声だ。

恐る恐るはじき出した声はどうやら平常時の状態に戻ったらしい。

ほっと撫で下ろす胸は未だ先生の唇の熱を覚えていて困るけれど。

……覚えてて、困るな。

なんだか余計に先生の抱擁に恋しさともどかしさを増してしまった気がするじゃないか。

あんな一瞬の気の迷いは後の時間に大きく影響してきそうで。

「ほら、別嬪さん。行くんだろう?祭り」

「っ……行きますよ」

別嬪さんって……。

アホ程嬉しい。

実際どこまでの含みでそれを言ったかは知らないけれど。

さっきの事もあってか、どうしてか今はマイナス思考は浮上しにくいらしく、伸ばされた手にも素直に手を絡めてしまった程。

あ、先生の熱だ。

先生の手、大きくて好き。

指の間が隙間なく埋まるのも気持ち良い。

まさかまたこんな風に先生と縁日に行けるなんてな。

なんて、どこか浮れた感覚でいれたのは玄関を出て、真新しい下駄をカラカラ鳴らし始めた僅かの距離。

不意に気が付いた危険予測にピタリと足を止めれば、当然先生の足も止まって『どうした?』という感じにこちらを振り返ってくる。

いやね、すっかり浮れて忘れていましたが、

「………知り合いに会ったら……どう説明しましょうか?この状況」

今更だけども、私がここに帰って来てるの親にも言ってないんだった。