どうしたらっ……

「……けしからんねえ」

「っ………」

「……その顔は……駄目だピヨちゃん」

「っ…あ……先生?」

「先生も男なんですよ、」

「っ____」

聞き覚えのある一言とは実に静かに余裕ある声音で響いたのに。

目は口ほどにとはこの事か…。

いつの間にか陰った部屋は着付けには不都合に薄暗く夕焼けに赤い。

それなのに、危ういこの瞬間には都合を図ったような妖しい彩で。

そんな中で捉えてしまった先生の双眸の見知らぬ危うさというのか。

一瞬阿呆にも『この人は誰だろうか?』なんて思ってしまう程。

先生なのに。

【先生】であるのに【先生】でなくて……。

一人の……男の人だ。

そんな認識が追い付いたと同時に結ばれたばかりの腰紐を先生の指先が伝い始めて。

結び目にスルリと指先がかかった瞬間には緊張に目を細めて息が止まった。

……のに、

「………男を煽ろうなんてピヨちゃんには早い」

「っ……」

矛先が変わった指先はスッと急上昇するなり私の額をパチリと弾いて来る。

同時に聴覚にもすっかり切り替わった余裕ある声音が響き、視覚で捉える姿も双眸も……先生だ。

いつもの先生。

何事もなかったみたいに。

一瞬崩れかけた時間を全て仕舞い込むように浴衣の襟元を合わせて縛り上げて。

私には早いだなんて。

それにしっかり煽られかけた癖に。

その都合の悪さを誤魔化して隠そうとしている癖に。

そう、強気に詰ってやりたいのに……。

込み上げた熱が喉に詰まって……無理。