こっちがどんなに意識しようとまるで無意味。
それこそ子供を相手にしているのと同じようなものなのだと言われたような感覚にまで陥る。
ついさっきまで浮れて己惚れていた心には実に冷たい冷や水で、ばしゃりと顔面から浴びせられたようなそれには痛みも伴っているのだ。
それを咄嗟に隠すには子供っぽいノリの野次しかなくて。
………本当、私も馬鹿だな。
そんな風に自分にまで呆れてしまえばだ、着ていた服に手をかけ今度は躊躇いなく脱ぎ捨てていく。
シャツを脱いでスカートを足元に落として。
そんな私の生脱ぎに息を止め目を見張るような事はなく、先生の手は真新しい濃紺の浴衣を静かに持ち上げ広げるのだ。
濃紺に朝顔。
実にシンプルで定番な柄で。
先生がわざわざそれを持ってきた時に何でコレなんだろうと思ったくらいに定番で。
「……先生、」
「ん?」
「なんで……この色でこの柄なんですか?」
今なら、聞いてもいいでしょうか?
袖を通しばさりと肩に浴衣の重みを感じたタイミング。
先生が目の前に回ってきたのを捉えながら何気なく問いかけてみた疑問。
そんな問いかけにチラリと視線が絡んだの一瞬だけ。
すぐにその身は床に置いてある腰紐を拾い上げる為にかがんでしまい。
それでも、
「……【儚い恋】」
「………」
「……朝顔の花言葉にはそんな意味もあるんだと」
「………」
「ピヨちゃんの事みたいだと思ってね」
「っ………失礼な」
ああ、よかった。
震えずに悪態をつけて。
それでも、そんな一言が精一杯で、…限界で。
これ以上何かを言おうものなら、きっとあっさり崩れて泣いてしまう。