家に帰って来たのは空も程よく橙を挿し込み始めた夕刻で、室内に入れば明かりをつけるかつけないかで躊躇う絶妙な自然光で保たれている。

帰宅に一息つくのもまた一瞬。

「ピヨちゃん、」

「っ……」

「おいで、着付けしてあげる」

とりあえず身を滑り込ませ座り込んだのは自室のマットレスの上で。

それなりに歩きまわった足も疲労を感じた筈なのに一瞬で違う感情に上書きされる。

呼ばれた瞬間に思わずビクリと肩が跳ねあげてしまったのを気づかれただろうか?

それを確めようにも振り返り捉えた姿は当然答えを見せぬ無表情様で。

と、いうか……何で先生はこんなにも平然としていられるんだろう?

僅かにも緊張したり抵抗を覚えたりしないのだろうか?

「……ピヨちゃん、脱いでくれないと着つけられない」

とりあえず言う通りに先生の前にその身を運んではみたけれどだ。

なんとなく流れるように目の前で脱ぐという行為には移行できず、つい無言で立ち尽くしてしまえばさらりとした先生の疑問が投げられるのだ。

こちらの戸惑いが無意味であるかのような。

「………先生はなんとも思わないんですね」

「ん?なんともって?」

「『脱げ』なんて要求の事です」

「ああ………まあ、職業柄ね。だって、逆にそれ言う度にいちいち意識してる医者って嫌だし恐くない?しかも小児科医だよ?俺」

「いや、まあ職業柄で見たらそうですけど、」

「ピヨちゃんは特に子供の時からの印象もあるしね」

「っ……どうせお子様ですよ。寧ろ若々しくて羨ましいでしょう?やーいやーい」

「………急にどうした?何をらしからぬ感じに野次を飛ばし始めた?」

「煩い、おっさん」

「はいはい、」

だって、やけくそになるしか体を保てないからですよ。