『おいで』と言わんばかりにスッと伸びた腕にはドキリと緊張する。

絡めとられるのではなく、今度は自分から来いと。

従順さを試されているようなそれには素直に手を伸ばすのも気恥ずかしさからの抵抗もあるのに。

「っ……」

「……良い子だね」

負けるしかない。

そうして引きにくる力にはついつい自分の全てをゆだねてしまいたくなる。

ねえ、先生。

どうして着付けなんて出来るんですか?

そう言えば雑貨屋で買った物の中身も聞きそびれている。

そんな疑問も投げてみようかと思うのに、どうしてかこのゆらりとした独特の時間に会話は不要な気がして。

ゆらり、ゆらり。

泳ぐような歩みと指先の熱や力が心地よくて。

勘違いにも……酔いしれてしまう。

今凄く……夫婦らしいのではないかと。


今この瞬間に『罰』とか『愛玩』なんてわだかまりは不在なんじゃないかって。


昔みたいに。


ああ、でも一言だけ。

音を挟ませてもいいですか?先生。

「……先生」

「ん?」

「………ありがとうございます」

「………」

その無言の返しは私の素直への先生なりの照れ隠しと、勝手に取ってもいいですか?

チラリと盗み見る横顔は特に感情を揺らさない無表情であるけれども。

キュッと強まった手の感触に心が焦れる。

もっと、先生に触りたいだなんて、自分の罪も罰も横置きに。



先生が欲しいだなんて……。