その距離を、なんだか埋めてはいけない気がして。

埋めてしまえば途端にここに居る全ての人に非難されるような気がして…。

この他愛のない雑踏の賑やかさが全て私の存在を咎めている様にも感じて、

っ……煩さ……

「ピヨちゃん、」

「っ……」

「……おいで、」

……どうして。

私はこの人のこの呼びかけには足が動いてしまうのだろうか?

恐くて埋められないと今の今まで怯えていた癖に。

耳に届いた声は決して大声ではないのに雑踏の中でもクリアに響いて。

『おいで』と言われるとどうしてか行かなくてはと理性より早く本能が疼く。

それでも、追い付いた理性が一瞬は足を躊躇わせて。

それでも……、

「………いい子だね」

「っ…子供じゃないんです。街中で頭を撫でるのはやめてくれませんか?」

「……いや、子供というより子犬感覚だったかも」

「もっと嫌です。私を何だと思ってるんですか」

「……ピヨちゃん」

「………もうそれでいいですよ」

わかってる。

分かってますよ。

良くも悪くも先生にとって私は『ピヨちゃん』。

夫婦なんてのも名目であれば、デートなんて言う今の時間も名目ばかり。

私がどこか期待してたそれとはきっと思い入れが違うのだ。

言われなくてもわかってる。

分かってた癖に……いちいちチクリと痛む心が一番煩わしい。

罰であるこの関係に僅かにも期待した私が馬鹿であるのだ。