あまりに唐突過ぎて、流石に驚き露わの表情で見つめ返してしまっていたと思う。

だって……呼ばないのかって……。

『音葉』と?

そんな今までの一線を踏み越える様な呼び方をしないのかと?

それであるならだ、

「……日陽。そう呼んだら呼んでもいいですよ」

「………ピヨちゃんはピヨちゃんだからなあ」

「私にとっても先生は先生ですから」

「………」

お互い様じゃあないかとニッコリ笑ってあしらったのは表面ばかりだ。

内心では『ほら、やっぱり』と複雑な感情がどうしても渦巻く。

自分は呼ぶ気が無い癖に。

私の存在を幼い頃の印象のままで留める癖に。

日陽には踏み込む気が無い癖に。

どうしてこちらだけが踏み込んでくれると思うのか。

先生が【ピヨちゃん】である私を望んでるんじゃないですか。

だったら、先生も【先生】であるのがフェアという物ではないですか?

先生は実に甘く柔く触れてくれるのに、苦く堅く触れてはくれない。

満たされるのは一瞬で、後味の苦みばかりが強烈に鮮明。

物足りなさだけが積もり積もって虚しさまで。

………この感覚、一緒なんだよな。

不倫をしていた時と一緒。

どんなに甘く満たされた時間を過ごしても、帰る背中を捉えた瞬間から苦くなる。

あいつに恋していた時と一緒……。

コレが罰だと言われれば確かに相応しい。

因果応報…か。

それが初恋の相手で返ってくるなんてまさに天罰。

自分に出来るせめては徹底して【ピヨちゃん】と【先生】の関係を保つ事だろうか。