そんな悶々とした葛藤の間も無意味にカップを唇に寄せていて、飲む気のない中身が時折上唇を掠める事にも意識がいかない。
やっぱり追いかけようか?
ああ、でも、もし全くの見当違いであったらそれはそれでなんか恥ずかしいし。
どうしたら!!
「っ……!!」
……なんて焦っていた感情さえも先生の謀の内なんじゃなかろうか?
冷たい。
首の裏が。
触れてきた先生の唇が、頬が。
「………お待たせ」
「っ……」
そんな言葉とほぼ同時に、背後から腹部に巻き付き抱き寄せてくる腕の感触にはじりじりとこそばゆい感覚が胸の奥で疼く。
鬚……剃ってきたのか。
「いや……別に待ってませんけど。何をどう解釈したら私が待ちわびてたみたいな結論になるんですか?」
勘違いも甚だしいと、つれない口調で抱擁も言葉も突っぱねたつもりであったのに。
「……『鬚が痛いから嫌だ』」
「…………」
「俺の手招きに対してそんな返答をしてきたから」
「…………っ…」
「『おいで』って言っただけなのに、その一言に『痛み』が伴う様な事を連想していたのなら………これは期待に応えてあげなくてはと思ったんだけど」
「っ~~~」
「勘違いだった?……なら、何を予想して『鬚が痛い』だろうなんて思ったの?…ピヨちゃん」
「っ……先っ__」
「諦めて、俺に愛でられておこうか?」
狡い、
……狡い。
どう考えても駆け引き上手な意地の悪い言葉遊びに感じるのに。
そこに在るのは駆け引きを楽しんでニヒルに笑う様な男ではなくて……。
【先生】なのだ。
それが一番狡くて苦い。