そんな回想をしながら無意識に唇に触れていた自分に気付いてしまえばなんだか異様に恥ずかしくて。
コレだとまるでそんな抱擁に飢えているみたいじゃないか、と首を横に振って否定してみる。
いや、でも……恋情云々はともかく。
発情期とかそういう大げさでもなくて。
それでも………隠したい僅かばかりの本心を打ち明けてしまえば…焦れているのだと思う。
でも、そんな風になってしまう原因は私というより…。
「……おはよう、ピヨちゃん」
「………おはようございます、先生」
自分が悶々としている背後、カラカラと音を立て開かれた扉。
同時に気だるげな朝の挨拶が聴覚を擽り、視覚では残念な程ムサったらしい先生の自堕落な姿を捉えるのだ。
動きもまたのそりのそりとした亀の如く、欠伸をしながらコーヒーを注ぐ後ろ姿にはついつい一言。
「眠いならまだ寝てればいいのに。折角の休診日じゃないですか」
「…折角の休診日だから起きたんですよ」
「はっ?」
「ピヨちゃんとまともにゆっくり過ごせるの休診日くらいだし、ふぁぁ…」
「っ……」
また、この人は…。
朝一から天然無自覚に人の気持ちを振り回して。
髪なんてボサボサで寝癖までついてるくせに。
顔なんて無精髭が伸びてるくせに。
気怠げに猫背気味になってるくせに。
休診日という今日は一日こんなスタイルを貫くつもりのくせに。
元がいいのになんて勿体無い。