「あー………なんつー懐かしく痛い夢を……」
夢にまで罰の効力が発揮されるとは。
目蓋を開いてみればツラリと頬を伝った生温い物。
それを涙だとはっきり認識しながら、ざわめいている心を落ち着かせるように一息ついた。
そうしてようやくのそりと起き上がり、欠伸混じりに捉える景観は……自分の部屋だ。
先生の持ち家の中の自分の部屋。
起き上がり座っているのは簡易的な折り畳み式のマットレスで、ベッドが届くまでの一時的な寝床である。
別にこのままでもいいのにな。
そんな事を思いながら立ち上がり6時過ぎを示す時計を確認してから部屋を出る。
先生の持ち家と言ったけれど真新しい新築のお洒落な家というわけではなく、どちらかと言えば年季の入った古びた家。
廊下を歩けばキシキシと鳴るし、キッチンと廊下を遮るのは昔ながらのレトロな薄いガラスの引き戸であったり。
それでも、逆にその現代には物珍しい感じが味を出していて、私としては実に好ましい住処となっている。
洗面所やお風呂場のタイルとかなんか可愛いしな。
そのお気に入りの洗面所で顔を洗い、寝癖を直し、洗濯機を回すとようやくキッチンへと足を向ける。
カラカラとガラス戸を引いて中に入り、食器棚からコーヒー豆の瓶を取ると慣れた手つきでコーヒーメーカーにセットするのだ。
流石に、勝手知ったる。
コポコポと響くコーヒーメーカーの音を聞き入れながら、迷う事なく食器棚の二段目からカップを取り出すのも自然の流れ。
ここを住処として2週間ともなれば、当然の慣れと順応だろう。