馬鹿らしい。
リアルな恋心を抱いていたは遠い過去の事で、何なら幼い感覚のそれは恋と言うにも未熟なものであったと思うのに。
まして、違う恋を手放したばかりの癖に…。
先生に対するこの感覚は顔なじみという安堵感の一種で、先生が私に抱くのもまた一緒。
そんな二人が夫婦をするとか、
「ないな。……ない」
「なにが?」
「先生と結婚するって事がです」
「なんで?」
「なんでって……どう考えたって常識的じゃないじゃないですか!夫婦ですよ?四六時中一緒に生活することになるんですよ!?お互いのプライベート見せ合う仲になるんですよ、私と先生が!」
「……だから?」
「だから?って…普通そう言うのは好きな相手と…」
「俺、好きだよ。ピヨちゃんの事」
「っ……」
「昔から懐かない猫みたいでさ。なんていうか逆に攻め込みたくなる感じだよね」
「………結局愛玩動物的ポジションでって事ですね」
おい、一瞬ガチにときめいた心を返してくれ。
さらりとでも、真顔でまっすぐに『好きだ』なんて言われたら勘違いにも恋心が誤作動してしまうじゃないか。
なのに、そこは先程からのマイペースさまの延長。
人の感情を悪戯に擽って高めたかと思えば、ひっくり返すような一言で奈落に突き落とすのだから。